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○枝野元官房長官会見
2011年3月30日、枝野幸男元官房長官は、総理が放射能に汚染された野菜の出荷・摂取制限を
福島県や茨城県に対して行ったことを記者会見で説明した。
その際、枝野氏は「非結球葉菜類類、ホウレン草や小松菜等」という言葉を使って、
放射性物質の影響度が近い野菜を分類したが、あるテレビ局の記者から
次のような質問を受けた。
「…ですけど、今、そのまさにおっしゃった、"等"という、"など"で、
他の野菜も含まれていると思うんですけれども、今、確認している野菜で、
紹介できるものがあれば、紹介頂けますでしょうか?」
(mp3)
その際、記者自身の質問の中に、次のようなリバース・スピーチが含まれていた。
【まるっきり、あの〜、…(不明瞭部分)…野菜…(不明瞭部分)…あると思うんですけど、
どのぐらいの野菜があって、"など"なんて、よほど(?)多くて…、しかし、
皆さん分かんないと思うんですけど】
(mp3)
これは、偶然、前後の音節が巧妙に組み合わさって生成される
短い表音依存型リバース・スピーチとはまったく異なり、文法上の問題はありながらも、
文章すら形成している興味深い例である。また、このリバース・スピーチは、
質問を行った背景を如実に説明するものとなっている。
記者は質問したいことを頭に思い浮かべながら、自分が質問できる順番を待っていた状況を
考えると、リバース・スピーチが現れやすくなっていたと想像される。
これは、表の音(おん)とは独立して生成された自立型リバース・スピーチと言えるだろう。
そして、記者に対する肝心の枝野元官房長官の回答であるが、表のモードでは
「あれ、この…、実際には栽培されていないものを含めてですね、
あの…、かなり詳細にわたりますので、農林水産省の方で正確にご報告を致させます」
と発言していたが、リバース・スピーチでは、まるで細かい質問に対して煙たく感じたかのように、単に
【知らない】と漏らしていた。
ただ、この【知らない】に関しては、「かなり詳細」の
「KANARIS-HOSAI」を逆に発音することで、「KANARIS」、つまり
「SIRANAK」が得られる。そのため、他の人が再現してみれば、
響きの近いものが作り出せ、表音依存型のリバース・スピーチと言える。
但し、前後に様々なことをしゃべってきていながら、なぜこのタイミングで
突然ポツリとそのように聞き取れるリバース・スピーチが現れてしまうのか、
という問題も考えていかねばならないだろう。
そのような、タイミングの問題で興味深いのが、2011年3月12日午前2時頃に官邸で行われた、
枝野元官房長官による地震及び原発の状況に関する記者会見である。
その際、早朝に総理自身が現地を訪れる予定であることを言及した個所の
リバース・スピーチでは【朝】という単語が現れた。
また、原発から半径3キロメートル以内の住民の避難は完了したことを触れた後、
枝野氏は 「現地の住民の方々は自衛隊、警察、自治体の指示に冷静に従って
頂きたいと思います」という発言を行ったが、 その「指示に冷静に従って」
(mp3)
の裏では、 【ただちに冷静に】
(mp3)というリバース・スピーチが現れていた。
読者もご記憶にあるように、当時、枝野元官房長官はこのような言葉を
繰り返し使用して揶揄されてきた。これは、表音依存型であり、実のところ、
誰でも再現可能なフレーズではある。だが、もし「指示に」という言葉が
「冷静に従って」の前に繋がっていなければ、【ただちに冷静】とだけ聞こえるもので、
【ただちに冷静に】というフレーズは完成しない。つまり、その時、
たまたま枝野氏が発した言葉の組み合わせが上手くこのようなリバース・スピーチを
生み出しており、何か運命的なものが感じられよう。
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