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逆再生のロックから聞こえる悪魔の言葉!?
1960年代後半、ビートルズの一員だったジョン・レノンは、逆再生すると、意図的に録音されたメッセージが聞こえるレコードの制作を始めた。
以後、ロック・ミュージシャンたちは、レコードに逆再生メッセージを含める実験を行うようになった。その結果、ロック音楽には悪魔的な逆再生メッセージが含まれるという噂が、次第に広がっていったのである。
特に、レッド・ツェッペリンの「Stairway to Heaven(天国への階段)」は、オカルト的、悪魔的な歌詞が含まれるとして、糾弾のターゲットになった。
たとえば、1982年4月、カリフォルニア州議会は公聴会において「Stairway to Heaven」のテープを、議員たちの前で逆再生させてみせた。すると、何人かの議員たちは「俺は悪魔に仕える」という言葉が聞こえると主張したのである。
そして、レッド・ツェッペリンのメンバーたちは、罪のない数百万人のティーンエイジャーたちを、無意識のうちに反キリストの弟子に仕立てあげる悪魔の代理人として非難されることとなった。
確かに「Stairway to Heaven」は、リード・ギタリストのジミー・ページによって作曲され、彼はイギリスの降魔術師アレイスター・クロウリーの信奉者だった。
だが、通常再生においては、人生の意味と天国への道のりを捜し求める女性について歌われているだけで、なんらおかしな点はない。もちろん、レッド・ツェッペリンのメンバーたちも、レコーディングの際に逆再生メッセージを意図的に加えてはいないと弁明した。
しかし、ロック音楽にはオカルト的な逆再生メッセージが含まれ、サブリミナル効果でティーンエイジャーたちを呪っているという噂は消えなかったのだ。
この噂に刺激を受けたのか、同じ年にノースカロライナ州ハンターズビルでは、30人のティーンエイジャーたちが、悪魔が意図的に逆再生メッセージをロック音楽の中に加え、アメリカの若者を呪い殺そうとしていると主張して、レコード店を焼き討ちする事件まで起きたのである。
こうしたニュースや噂は、オーストラリアのデイヴィッド・ジョン・オーツ氏の耳にも入ってきた。
オーツ氏にとって、ロック音楽の逆再生で現れるというオカルト的メッセージが、ティーンエイジャーたちを怖がらせている事実が腹立たしかった。意図的に加えられたものなら、それは茶番として無視すればいいのだ。
だが、先のレッド・ツェッペリンのメンバーたちは、決して意図的な操作はしていないと弁明している。にもかかわらず逆再生メッセージが聞こえるとしたら、そんな馬鹿げたことが現実にありうるのか?
逆再生メッセージの分析研究
この疑問はオーツ氏の研究心をあおり、1984年になって、彼はレコードに含まれる逆再生メッセージを検証すべく、レコードの逆再生分析を始めたのである。
実は、オーツ氏にとって分析を始めることは簡単であった。というのも、その前年にオーツ氏は自分のウォークマンを誤って便器に落として壊してしまい、逆再生しかできないジャンクをなぜか引出しの中に保管していたからだ。そのジャンクが逆再生メッセージの検証に有効利用されることとなった。
当初、オーツ氏は雑音以外に聞きとれるはずはないと軽く考えていた。ところが、すぐにそれは間違っていることに気づかされた。いくつもの曲を聞いていくうちに、知的に構成された言葉が次々と聞こえてきたのだ。
オーツ氏はレコードに収録された2000以上の膨大な曲を徹底的に分析し、実に多くの逆再生メッセージが含まれていることを発見した。確率としては、約半数の曲に逆再生メッセージと思われる言葉が現れる事実を知ったのだ。
それらは、決して意図的に加えられたものではないだろうとオーツ氏はいう。レッド・ツェッペリンの「Stairway to Heaven」に含まれた逆再生メッセージもそうだが、オーツ氏は独自の分析でそれらが意図的なものではないことを明らかにしているのだ。
というのも、意図的に逆再生メッセージを加えると、メッセージが加えられた箇所を通常再生した際にどうしても違和感が生じてしまい、違いは容易に判別できるのである。もちろん、「Stairway to Heaven」には、そうした形跡はいっさい発見されなかった。
ところが、「Stairway to Heaven」の歌の最初から現れる逆再生メッセージは、実に驚くべきものであった。
「逆再生するんだ。歌われる歌詞に耳を傾けろ」というメッセージが聞きとれ、続いて「われわれを苦しめる悪魔がいる小さな道具小屋がある」という言葉が現れる。
歌の最後のほうの「ふたつの道が用意されていて、道を変更するのは今からでも遅くはない」という箇所の逆再生では、「私を落胆させる小道と、偽の権力を持つ、私の愛しい悪魔」という表現が現れる。
また、判別しがたいものだが、「それからは逃れられない。俺は歌う。悪魔とともにいるから。人々は悪魔のために生きねばならない」と聞きとれる箇所もある。
つまり、レコーディングのときに、こうした逆再生メッセージが加えられた事実はないにもかかわらず、逆再生すると、ありえないはずの言葉が、だれの耳にも明瞭に聞こえてくるのである。
しかも、この不思議な現象は、レコードに限られたものではなかった。オーツ氏は、人の会話やスピーチからも、逆再生メッセージが現れるという驚愕の事実を発見したのだ。オーツ氏はこれを「リバース・スピーチ」と名づけ、さらに研究を続けたのである。
第三者が確認したリバース・スピーチのメッセージ
人の会話やスピーチを録音し、それを逆再生すると、本人にはまったく心当たりのない言葉が明瞭に聞こえてくる。それが「リバース・スピーチ」という謎の現象だとオーツ氏はいう。
だが、それはオーツ氏の思いすごしではないのか? 空に浮かんだ風船を、だれかが「UFOだ!」と断言すれば、まわりの人もなんとなくUFOに見えてしまうように、偶然に逆再生されたあやふやな音声も「こう聞こえる」と思い込んでしまえば、それ以外は考えられなくなってしまうのでは……。
そこでオーツ氏は、この事象を第三者によっても追検証すべく、次のような実験を行った。
まず、オーツ氏が逆再生メッセージが含まれていると判定したスピーチを集めて、3つのグループに逆再生で聞いてもらった。もちろん、被験者が聞くものが逆再生されたものであることは告げられていない。
第1のグループには、逆再生時にオーツ氏が聞きとれたメッセージを紙に書いたリストを与え、実際にそのように聞こえるか報告してもらった。
第2のグループには、実際には存在しない逆再生メッセージのリストを与え、それが聞こえるかどうか報告してもらった。
そして、第3のグループにはリストを与えず、ただ聞こえるものを報告してもらった。
結果は興味深いものであった。
第1のグループでは、事前に聞こえる内容を与えていたこともあるが、高い確率でリストどおりに聞こえることがわかった。
次に、第2のグループでは、与えられたリストのメッセージをだれも見つけることができなかった。この結果は、逆再生時に聞こえるメッセージが、決して曖昧な言葉ではないことを示している。つまり、逆再生メッセージは、聞きようによってはどんな言葉としても認識されてしまうようなあやふやなものではないということである。
そして、第3のグループでは、被験者のほとんどが、少なくともメッセージを構成する複数の単語を認識した。こうして、英語を常用語とするだれもが認識可能な単語やフレーズの存在することが、客観的に確認されたのである。
リバース・スピーチの実例
だが、オーツ氏が発見したと主張するリバース・スピーチとは、具体的にどのようなものなのか、まずはここでいくつかの例を紹介しておこう。
以下は、彼の研究で明らかになった逆再生メッセージが現れた例で、【 】内は、逆再生時に聞こえたメッセージである。
★ニール・アームストロングが月面に歩み出て:「これは人にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」【人類は宇宙遊泳する】
★ケネディー大統領暗殺を報じるライブのコメント:「スタンバイしてください。パークランド病院。銃撃がありました。銃による深刻な傷の治療に備えるよう、パークランド病院はスタンバイを指示されています」【彼はひどく撃たれた。待つんだ。これから見てみることにする】
★ケネディー大統領暗殺前にインタビューを受けたリー・ハーヴェイ・オズワルド:「しばらくソ連で生活していた経験から言えるのだが、キューバが共産党員にコントロールされているという非難を私は自信を持って否定できる。」【オズワルドは怒っている。彼らに耳を傾けるんだ。大統領を殺害したがっている。】
★CNNテレビのラリー・キング・ライブで、ホワイト・ハウスでの生活について質問されたヒラリー・クリントンのリバース・スピーチ:【神に感謝。これが人生よ。何てストーリーなの!】
★マーチン・ルーサー・キング牧師による有名な「私には夢がある」演説のリバース・スピーチ:【そして、私は主に招かれた者である。われわれの名前を呼びなさい。われわれの名前を呼びなさい。】
★マーチン・ルーサー・キング牧師の誕生記念日に、彼の生前の活動について言及したアメリカのアル・ゴア前副大統領のリバース・スピーチ:【あなたは潰された。しかし、偉大であった。】
★オーストラリアの元首相ボブ・ホークが、1987年の連邦選挙に当選してどのように勝利を祝うか質問されて:「そうですね、数杯の紅茶を飲んで祝いますよ」【かつては極上のマリファナを吸ったものだ】
オーツ氏は自身の研究をまとめた著書でこうした実例をいくつも紹介している。そして、興味深いことに、もちろん逆再生メッセージの声も、ほとんどの場合は明確に本人の声で現れるのである。
人がスピーチを行うとき、必ずしもスムーズに話を続けていけるものではない。途中で考えたり、いい換えたり、話題を変えたりする。そのように、文法的に完全ではないスピーチであっても、逆再生メッセージは現れる。
むしろ、そのようなときこそ、逆再生メッセージが現れやすいとオーツ氏はいう。 なぜなら、そのようなときは、ため息、笑い、躊躇などとして、感情が現れやすいと考えられるからだ。実際、オーツ氏の分析データからは次のようなことがわかった。
通常、人がリラックスした状態で会話すると、およそ10秒ごとに逆再生メッセージが現れる。感情的な会話になると、もっと短い間隔で現れる。
それに対して、講義のような論理的なスピーチにおいては減少し、30秒から1分ごとに逆再生メッセージが現れる。そして、ときには1、2分ごとにしか現れないこともある。
こうして、さまざまな事例を収集したオーツ氏は、逆再生メッセージは確かに存在し、次のようなことがいえると結論づけたのである。
@人のスピーチは、少なくともふたつに分離した、しかし補完的な機能とモードを持つ。
Aスピーチのふたつのモードである「通常再生=表のモード」と「逆再生=裏のモード」は、互いに補いあってひとつとなり、依存しあっている。
B裏のモードは表のモードの前に生成される。
リバース・スピーチで語られた驚愕の本音!
オーツ氏がまとめたこの3つの結論は、リバース・スピーチの本質を端的に表している。だが、表のモードと裏のモードが補いあい、依存しあっているとはどういうことなのか。
それをくどくど説明する前に、まずリバース・スピーチの最大の特徴である、ふたつのモードを示す実例を見ていただいたほうが話は早いだろう。
それは、オーツ氏が、元アメリカン・フットボール選手のO・J・シンプソンが、妻を殺害した容疑で行われた公判を逆再生分析しているケースだ。以下は実際の公判での会話の一部である。
伊藤判事:ミスター・シンプソン、陪審員の選考を9月19日から9月26日まで行うために、前もって選んだ日程で続けていくことを了解しますか? 7日間、裁判が延長されることになるのを了解しますか?【シンプソンが彼女らを殺した】
シンプソン:はい【私がやりました】
伊藤判事:よろしい。その日程調整でよろしいですか?【彼はわかっているだろうか? あなたが愛する婦人を殺した】
この一連の逆再生メッセージは、実に驚くべきものである。つまり、伊藤判事はシンプソンが有罪であることを確信しており、シンプソンもまた「私がやりました」と、逆再生の裏モードでは認めていることになるからだ。
さらに、無罪判決が下りたあとテレビ・インタビューを受けたシンプソンは次のように答えている。
シンプソン:おい、続けて構わないよ。受け入れがたいが、人々は「おめでとう」と言ってくれる。【俺が騙した。馬鹿にしたさ。俺はこのように人を騙す。】
このように、逆再生メッセージにおいては、通常再生時での発言とは異なり、発言者の本音が無意識に現れる傾向がある。これが表・裏ふたつのモードの意味であり、それこそがリバース・スピーチの最大の特徴だとオーツ氏は主張するのである。
これは驚くべき内容の研究ではないか。にわかには信じることのできるものではない。もちろんオーツ氏も、研究は発展途上であり、未知の領域が多いことも認めている。
たとえば、通常、英語を話す人は逆再生メッセージも英語となるが、得意でない言語を使ったときの逆再生では、母国語になる場合もある。また、別人の声が現れたり、まったく話すことのできない言語による逆再生メッセージが現れる不可解な例もあるのだ。
特に不可解なことに、逆再生メッセージは、通常再生時に実際に発音される音とは関係なく生成されることもあるのだ。
さらに驚くべき逆再生メッセージがある。前出のシンプソンが殺人事件の前にたまたま受けたインタビューにおける発言だが、未来のことを予言するような逆再生メッセージが含まれていたのだ。
「大半の人々、おそらく95パーセントの人々が拍手してくれた【馬鹿者は俺を褒めたたえてくれる】。人々はいわないが、そのように感じる人々がいることはわかっているよ【妻を殺した】」
今の段階では、こうした不可解な事例については、まだあまり研究の手が及んでいない。しかし、オーツ氏をはじめとする研究家たちはリバース・スピーチの存在自体については、まぎれもない事実だと断言するのである。
赤ちゃんによるリバース・スピーチ
リバース・スピーチは、裏のモードが表のモードよりも先に生成される、とオーツ氏は結論づけているが、これも信じがたいことである。
なぜなら、人が何かを考え、発する言葉を選んでいる瞬間には、すでに逆再生メッセージが用意されていると考えるしかなくなるからである。
具体的には、実際に発声しはじめたときに、逆再生メッセージは語尾から(又は瞬時にすべてが)刻み込まれていくと推測される。
逆再生してメッセージが正常に聞こえるためには、通常の時間の流れでは、単語や文が裏では逆に刻み込まれていく必要があるからだ。
だが、現実的には、すべてのことが一瞬のうちに現れるものと思われる。
さらに研究を進めたオーツ氏は、そもそも人は言葉を習得するときから、裏のモード、つまり、逆転した発声から習得しようとすることを発見している。
わかりやすい例を挙げてみよう。たとえば、通常、赤ちゃんは生後1年ぐらいまでは言葉を話せず、泣き声をあげる以外に親への意思表示を行えない――とわれわれ大人は理解している。
ところが、現実には、生後4か月ごろから赤ちゃんは逆方向に言葉を話しているのだ。
オーツ氏は、生後すぐの赤ちゃんの泣き声や意味のない幼児特有の発声の逆再生分析を始め、普通では理解できないそれらの発声が、逆再生すると正常の言葉を構成している事実を発見した。
生後4か月ごろからの逆再生メッセージには、「ママ」「パパ」「お腹が空いた」「トイレ」「助けて」などの言葉が現れている。そして、7か月ごろからは、簡単な文すら現れるようになったのだ。
こんな例もあった。
オーツ氏の娘が2歳の誕生日を迎えたとき、彼は妻と別居してアメリカに引っ越すことになった。その際、録音した娘の声を逆再生すると、すでに娘は無意識のレベルでオーツ夫妻の結婚の破綻を理解しており、次のようなメッセージが現れていた。
「パパと話ができなくなる」
「私は悲しい」
「ママ、助けて」
「パパは愛してくれている」
「パパは行ってしまう」
言葉の魔力
20世紀初頭、フランスの言語学者ソシュールは、古代ローマ詩の中に聞き取られた音(おん)の法則、なかでも特に「パラグラム」に興味を持った。彼がいう「パラグラム」とは、テーマ語がテクスト中に散種されているものである。
丸山圭三郎著『言葉と無意識』(講談社現代新書)に取りあげられた例を使わせていただくと、音楽と光明の神アポロを詠ったある詩句に下図のような文が含まれる。
すると図ように、「ア」「ポ」「ロ」といった音がいくつも現れる現象が「パラグラム」である。ソシュールはこのような現象が偶然に現れるのか、詩人が意図的に組み込んだのか頭を悩ませ、途中で研究を断念してしまった。
しかし、のちに精神科医フロイトが「無意識」の概念を提唱して、偶然でも意図的にでもなく、「無意識」に生成された可能性がクローズアップされてくる。
つまり、詩人があるテーマを意識しながら詩を作っていくと、音の配列を考えなくとも、テーマ語の音が詩の中に自然と含まれてしまうという不思議な現象である。
昔から、日本では言葉には不思議な力や魂が宿るとして、言霊という表現がある。活字を並べるだけの詩でも、無意識のうちに不思議な現象が現れることをソシュールは発見したわけだが、他方で、言葉を発声する行為にも不思議な力や魂が宿っている可能性がある。
先に触れたように、そうした可能性のひとつがリバース・スピーチといえるだろう。そして、オーツ氏もまた、この無意識に注目しているのである。
ユングの研究で、人には、意識のレベル、個人的無意識のレベル、そして集合的無意識のレベルがあることがわかってきた。オーツ氏によれば、リバース・スピーチにもその3段階の意識が現れるという。
意識の深い層にまでわたって研究を進めたオーツ氏が発見したことは、逆再生メッセージは、顕在意識下で行われる(論理的)スピーチを補完するように、無意識のうちに同時に生成されることであった。この場合の無意識とは、もちろん個人的無意識である。
そして、顕在意識下でのスピーチと、逆再生時の無意識のメッセージを合わせることで、発言する人物の真の心の状態が判明する。
たとえば、心から平和を望み愛を語る歌を歌えば、逆再生メッセージでも同じようなメッセージが聞こえる。それに対して、顕在意識下で嘘をついたスピーチをしていれば、逆再生メッセージではそれが嘘とわかる本音が現れる。
一方、集合的無意識の発現と考えられるある特定の言葉が、逆再生メッセージに現れることも珍しくない。
たとえば「つむじ風」「ルシファーとサタン」「エデンの園」「狼」「アーサー王伝説」といった言葉は、その言葉を発している人物が個人的にそのような口癖、宗教的知識などを持っていなくても、隠喩(メタファー)として頻繁に逆再生メッセージに現れる。
もちろん、オーツ氏が研究の対象にした人々は英語を母国語とするため、欧米文化の背景が大きく影響していると思われるが、こうした言葉は人が共通に持つ深層意識である集合的無意識の発現と推測されるのである。
だが、これはいったい、何がそうさせているのか?
オーツ氏の仮説では、人の右脳が無意識のうちにそれを可能にしているというのだ。
人間の脳は無数の仕事を処理する能力があり、逆転機能も備えている。たとえば、光(見たもの)は脳で解釈される前に、眼球のレンズを通して反転される。また、人はトランス状態にあるとき、まれに言葉を逆転して話すことがある。オーツ氏自身も、退行催眠にあるとき、逆転した言葉を話した経験があるという。
逆再生メッセージの明瞭さを調べると、感情がこもったスピーチであるほど、より明確に音楽的に聞こえる傾向がある。このようなことからも、オーツ氏の仮説では、逆再生メッセージはより感情を司る右脳によって無意識に生成されているとしている。
事前に洩れた湾岸戦争のコードネーム
オーツ氏が研究をはじめた当時、意図的に含めた逆再生メッセージの影響を含めて、ロック音楽が人の脳に与える影響を研究していたのは、ウィリアム・ヤロール氏だけであった。1982年にカリフォルニア州議会で行われた公聴会には、彼が専門家として出席した。そのため、当初は、無意識に含まれるリバース・スピーチの研究はオーツひとりが行っていたものであり、論理的な検証という点では十分とは言えなかった。しかし、その後、多くの研究家がオーツ氏の業績を支持し、現在では分析家としてライセンスを取得するために、アメリカとオーストライアでは多くの生徒たちがコースを取得して学んでいる。そして、何よりも実用という面では、興味深い結果が得られていることは無視できない。
1990年の湾岸戦争が始まる数か月前、オーツ氏は米国防総省の要人によるスピーチを録音して、徹底的に逆再生分析を試みた。すると、今まで聞いたことのない「シモン」という言葉が何度も現れることに気がついたのだ。
オーツ氏はその言葉に関する疑問をワシントンDCの知人に頼んで、消息筋に聞いてもらった。すると驚いたことに、「シモン」とはアラブ・アフリカの言葉で「砂漠の嵐」を意味するということがわかったのである。
もちろん、「砂漠の嵐」とは、アメリカ軍が湾岸戦争時に与えた作戦のコードネームであったことは読者も記憶にあるだろう。
CNNテレビでは、リバース・スピーチが暗号を事前に解読したというニュースを大々的に報じ、その後、オーツ氏はマスコミから多くのインタビューを受けることになった。
マスコミが大騒ぎするのも無理はない。国家的機密でさえも、リバース・スピーチによって簡単に漏出してしまうからだ。逆再生分析は、軍事目的にも利用可能ということである。
他方で、リバース・スピーチ技術は、究極の嘘発見器にもなりうる。事実、オーストラリアとアメリカでは、逆再生分析が警察の犯罪捜査に利用されている。容疑者の証言を録音し、逆再生することで事実を語っているかどうか調べることが可能であるからだ。
通常、無実の者は逆再生メッセージで事実を客観的にとらえているのに対して、偽証する者は自分の有罪を認めるメッセージを発する傾向がある。しかし、従来の法的手続を優先すべきことや会話録音に関わるプライバシーの問題などから、具体的にどの事件にどのように利用されたのか、公開されていないのが現状だ。
リバース・スピーチの課題と未来への影響
リバース・スピーチ研究は大きな可能性を秘めてはいるが、他方で、リバース・スピーチが一般に認知されると、さまざまな問題が持ちあがる可能性もある。
たとえば、逆再生時に現れた発言が法的に有効になるとしたら、陪審員制度がとられたとしても、O・J・シンプソンのようなケースは有罪となっていた可能性が高くなるだろう。
さらに、もっと大きな問題も考えられる。大統領や総理大臣のような人物が、公の場で発言する機会を敬遠するようになるということだ。もちろん、政治家に限らず、著名人、あるいはテレビやラジオでインタビューされる一般人にとっても、同じことがいえる。
なぜなら、表では適切な言葉を選び、だれに対しても善人として振る舞うように努めたとしても、まったく異なる隠された本音が暴露されてしまう可能性があるからだ。他人事ではなく、自分自身、それを受け入れられるかどうか、考えてみる必要がある。
逆再生メッセージが有効であるゆえに、政治家たちは会話の録音、逆再生を禁じる法案を可決させようとするかもしれない。そのとき、はたして自分は「ノー」といえるかどうか――。
多少の訓練は必要だが、逆再生メッセージは、だれでも簡単に検証が可能である(専門的にはライセンス取得の必要あり)。そのため、相手の心を読むことができるようになり、争い事、犯罪や紛争、さらには戦争すら減少・回避されるかもしれない。
医学の分野では病因究明、未来学においては将来の展望調査、コンピューターによる逆再生メッセージの早期診断など、明るい展望がある。
オーツ氏の研究が普及すれば、われわれは裏表のない人格形成を余儀なくされ、精神性を高める努力を行う方向に向かい、世界のさまざまな問題が速やかに解決されていくだろう。そして、われわれが健全な社会に住んでいて、未来に対してポジティブに勇気を持って立ち向かえば、この技術は浸透していくだろう。
しかし、われわれの社会が腐敗していれば、この技術の普及を阻止しようとする勢力が現れるかもしれない。まさに、今われわれは岐路に立っているのである。
われわれが抱えている問題は、さまざまな問題を乗り越えるための技術開発が進んでいないのではなく、すでに用意されている技術と知識を受け入れるかどうかにあるのかもしれない。
もしそれを受け入れるならば、われわれは努力と精神的苦痛を一時的に体験せねばならないだろう。しかし、それさえ我慢すれば、理想的な社会到来は本当に目の前まできているのかもしれない
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